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怪盗ムーラン・ルージュ
#ホープ・ダイヤモンド(呪いのダイヤモンド)編​(90分)​

 

この台本には外国語が出てきます。
★印は【※印の日本語訳を読んでもいい】☆印は【セリフを読まなくてもいい】と、なっておりますので演じや

すいようにどうぞ。

≪役表≫

〇藤崎 武尊(ふじさき たける)♂:
〇藤崎 乃吾(ふじさき のあ)♂:
〇藤崎 志のぶ(ふじさき しのぶ)♂♀:

〇ダリア・梨世(りぜ)・鳴海(なるみ)♀:
〇峰岸凛子♀:

〇鳴海 風助(なるみ ふうすけ)♂:
〇フランシス・葵(あおい)・ヴェルヌ♂:

〇N(ナレーション)♂♀:

≪兼役推奨≫
〇アダム♂♀:
〇イヴ♂♀:

〇佐伯 林瑠(さえき しげる)♂:
〇山南 紫(やまなみ ゆかり):
〇不知火 みこと(しらぬい みこと)♂♀:

〇加賀美 雛(かがみ ひな)♀:
〇加賀美 肇(かがみ はじめ)♂:

〇毬緒(まりお)・ド・ヌーヴ♂♀:

〇藤崎 賢心(ふじさき けんしん)♂:

 

 

_________________________________
≪配役例≫4:3:1
武尊♂:
乃吾/アダム♂:
志のぶ/毬緒/みこと♂♀:

ダリア/紫♀:
凛子/雛♀:

風助/肇/賢心♂:
フランシス/林瑠♂:

イヴ/N(ナレーション)♀:

_________________________________

 


【1】

武尊  ―――夢を見る。
    父の柔らかい笑顔。
               その背後から、暖かい太陽の光が差し込んだと思った瞬間に走る衝撃。
    視界が反転し体がふわりと浮く。
    身震いして目を開けると燃え盛る炎が一面に広がっている。
    血の滲んだ口元が何かを伝えようと動いている。
    答えるために手を伸ばそうとしても体が言うことをきかない。
    片脚がひどく痛む。

    痛みに耐えきれず悲痛が口からもれるのと同時に起こる爆音。
    さらに燃え盛る炎。

    燃えているのは俺たちの家。
    炎の中にたたずむ母。
    涙を浮かべて俺を見つめ何かを呟いているが、轟音にかき消されて聞こえない。
    俺の片脚は凍てついた氷のよう。

    炎は激しさを増す。

    紅蓮の月の下で。
    あの人が行ってしまう。父のように。
    
    叫べ、叫べ、叫べ…。

    俺は夢を繰り返す。

 


N   深夜のオフィス街。
    パトカーのサイレンがこだまする中、軽快な足音が響く。
    身に纏う真っ黒なスーツが、赤い月に照らされて美しく光るのが、指令室からもよく見える。
    監視カメラを傍受した無数の映像を見ながら、藤崎 武尊(ふじさき たける)はにやりと笑った。


武尊  (微笑)風助さん今夜はやけに冴えてるな。


イヴ  左方向から追手が接近。


武尊  志のぶ、次の角右だ。


志のぶ 了解。


武尊  乃吾、志のぶの位置が確認出来たら、いつでもピックアップできる準備を。


イヴ  位置データを更新して転送します。


乃吾  嬉しそうですね、兄さん。


武尊  ああ、仕事のできるライバルを持つと高まるよ。


乃吾  (微笑)確かに。


志のぶ なに、今って結構やばい状況?


武尊  大丈夫、俺たちの方が今は優勢。

    でも気をつけろよ?まだ走れるな?


志のぶ (いたずらそうに笑って)愚問でしょ。


乃吾  確かに、息一つ乱れていませんからね。

    …あれ?兄さんD地点の映像どこかおかしくありませんか?


武尊  ん?…っ、志のぶ今すぐ逆方向に走れ!


志のぶ え?


N   瞬間。けたたましく警報が鳴り響く。武尊はキーボードを素早く叩きながら状況を確認する。


武尊  逃走経路に確保していたD地点のカメラはフェイクだ。俺たちが映像を傍受してるのを逆手に取られた。
    …イヴ、至急新たな逃走経路を割り出す。

               おまえは他のカメラにトラップがないか解析して、すぐに修正してくれ。


イヴ  了解。


武尊  志のぶ、緊急事態だ。


志のぶ はは、そんな予感はしてた。
 

イヴ  トラップ3地点で確認、修正します。


武尊  …2つは無視していい、だけど…この地点は…いや、いける。イヴ!


イヴ  逃走経路確認。乃吾に転送します。


乃吾  兄さんこれってもしかして。


武尊  ああ。


乃吾 (微笑)無茶言いますね。


武尊  イヴは周辺ビルの警備システムに侵入しろ。
    志のぶ、追っ手が近くまで来てる。

    今から誘導する地点にたどり着いたら合図と同時に“アレ”使え。


志のぶ アレって?


武尊  ダリアの“お守り”だよ。


志のぶ それって≪もしもの時の試作品≫?
 

乃吾  今がもしもの時ですよ、志のぶ。


武尊  絶対にうまくいく。俺たちを信じろ。


志のぶ 了解。
 

イヴ  侵入完了。


武尊  突き当りのビルの前で風助さんとかち合う。

    ギリギリまで引き付けろ。

    乃吾、急げ。


N   サイレンの音がすぐそばまで近づいてくる。
    壁に阻まれ逃げ場を失った後ろ姿にライトが照らされ、拡声器を通して怒号が響いた。


風助  止まれ!止まらないと撃つぞ!


志のぶ …これはこれは鳴海警部殿。


風助  手をゆっくりと挙げてこちらを向け。


志のぶ そんな物騒なモノをこちらに向けないでください。


風助  早くしろ。


志のぶ はいはい…ああ、それにしても今夜は月が綺麗だ。 そう思いませんか?


風助  月なんぞにかまけていられるのも今のうちだ…もうおまえは逃げられない。


志のぶ (微笑)それはどうでしょう?


風助  何がおかしい?おまえはもう完全に包囲されているんだ。大人しく投降しろ!
 

乃吾  到着。


武尊  警備システム作動。志のぶ、今だ!


N   合図と同時に無数に鳴り響く警報。
    鳴海や警官たちが気を取られた一瞬の隙を突き、彼の拳銃を奪いライトを目掛けて打ち込み光を奪う。
    隙をつかれたことに激高し、暗闇の中殴りかかってくる彼の拳を交わしながら耳元でこう囁いた。


志のぶ 鳴海警部の勇姿を称え、今宵は特別に…プレゼントです。


N   突如、眩い光があたりを包み、同時に不思議な甘い香りが漂う。
    視界がぐらりと揺れ、警官たちは次々とその場に膝をつき倒れていく。


風助  しまった…。


N   朦朧とし、今にも倒れそうになる鳴海の胸元にカードが差し込まれる。


風助  くそっ…逃がす…か…ムーラン…ルー…ジュ・・・


N   伸ばした手は空を切り、彼はとうとうその場に倒れこんだ。


志のぶ またお会いしましょう鳴海警部。紅い月の夜に……


N   薄れゆく意識の中、去っていく足音だけが耳障りなほど脳裏に響いていた。

    ――――現在、宝石ばかりを狙う怪盗集団が世間を騒がせている。
    彼らの出現する日は何故か月が紅蓮に燃え、その後を追う人影を赤黒く照らしていた。 
    盗んだ現場に必ず赤い風車のカードを置いていく事から、人々は彼らをこう呼んでいる。


    ≪怪盗ムーラン・ルージュ≫と。 

 

 

  

 

【2】 


N   夜の街を疾走する黒塗りのスポーツクーペ。

    静かな顔でハンドルを握る藤崎 乃吾(ふじさき のあ)。
    その横に座る藤崎 志のぶ(ふじさき しのぶ)は、チョコレートたっぷりのエンゼルフレンチを

               美味しそうに頬張っている。
               ナビのモニターが指令室へと切り替わると、彼らの兄が顔を覗かせた。

 

武尊  おつかれ、よくやった。
 

乃吾  おつかれさまです、武尊(たける)兄さん。
  

志のぶ (食べながら)やー、今日はまじで死ぬかと思った。  


武尊  悪かったな志のぶ、無事でよかった。  


志のぶ ……。


武尊  志のぶ?


志のぶ …(呟くように)なんで謝るんだよ。


武尊  ん?どした?


志のぶ なんでもない。


乃吾  エンゼルフレンチ、もっと欲しいんでしょ?


志のぶ え、いや…別にそういうわけじゃ。


武尊  (微笑)ああ、朝一で買ってくる。


志のぶ …チョコレートダブルカスタマイズにして。10個。


武尊  あはは、甘党だなおまえ。イヴ、風呂沸いてるよな? 
 

イヴ  はい。帰宅の時間に合わせてセットしてあります。


志のぶ 流石、イヴ。


イヴ  では、私はスリープモードに入ります。


武尊  お疲れ様。


乃吾  兄さんはこれから店に?


武尊  ああ、今から解析か?あんま無理すんなよ。


乃吾  ええ、大丈夫です。


武尊  じゃあ、二人とも気を付けてな。


N   優しく武尊は笑うと、モニターを切った。
  

志のぶ …あのさ、ずっと言おうと思ってたんだけど…最近の武尊にぃの過保護な感じ何なの。


N   膨れっ面で苺ミルクのパックをあおりながら、志のぶは足を組み替える。


乃吾  兄さんの過保護は今に始まったことじゃないでしょう。

 
志のぶ 違う、普段のことじゃない。


乃吾  え?


志のぶ 今夜の事だって、乃吾にぃも俺も危険なんか覚悟の上だろ?
    なのに「悪かった」だの「無理すんな」だの、好きで無理してんだよ?てか無理じゃないし。
    あんな風に言われるとなんていうか…疎外感?みたいなの感じる。


乃吾  色々思う所があるんですよ。


志のぶ 考えたってどうにもならないだろ?!だってあの脚じゃ…っ。


乃吾  …。


志のぶ あの脚じゃ一人で何もできないんだからさ…。
    

N   静まり返る車内で不機嫌そうに、そしてばつが悪そうにドーナツを頬張る志のぶを睨みつけて、

    乃吾はため息をつく。


乃吾  …それをおまえが言うのか。


志のぶ 俺、間違ったこと言ってない。


乃吾  自分の正しさが全てにおいて正解だと?


志のぶ …。


乃吾  確かに最近の武尊兄さんは消極的だ。

               それはきっと何か考えがあっての事か…もしくはあの人の強すぎる責任感からなのか。
       だけど、それと兄さんの脚の怪我の事とは関係ない。


志のぶ …ごめん。


乃吾  二度と俺の前で兄さんの脚の事を言うな。できないなら今すぐ降りろ。


志のぶ もう言わない…だけど、俺…寂しいよ。

​N   今にも泣きそうな弟の顔を見て、グッと睨みつけていた表情をとくと乃吾は志のぶの頭を撫でる。


乃吾  本当に、志のぶはまだまだ“ぼうや”ですね。


志のぶ 否めない。


乃吾  あはは、泣いたことは武尊兄さんに黙っておいてあげますよ。


志のぶ 泣いてねーよ、ばーか。

 

 

【3】


N   女は愛用のジミーチュウの真っ赤なハイヒールの音を小気味よく響かせながら、夜の街を歩いている。
    アッシュブラウンのロングヘアをなびかせ、涼しげな眼もとは一点を見つめ、ふくよかな唇はうっすら

                笑みを浮かべていた。
    見つめるその先は“Bar ルージュ・ノワール”。小さく深呼をして、彼女は扉を開けた。


武尊  (微笑)凛子。いらっしゃい。  


凛子  どうも。  


武尊  何にする?  


凛子  そうね……マンハッタンを。  


N   そう言い放ち、峰岸 凛子(みねぎし りんこ)はセブンスターに火をともす。


凛子  今日はお客さんいないのね。


武尊  それを狙って来たんだろ。 
 

凛子  ご明察。

 
武尊  …お待たせ。
 

凛子  ありがとう。
  

武尊  で?  


凛子  で?って?なにもないと来ちゃいけないの?


武尊  いや。おまえならいつでも大歓迎。  


凛子  よく言うわね。


N   マンハッタンを一口含むと彼女は封筒を取り出し、『見て?』と上目遣いで促す。


武尊  次のターゲットか?気が早すぎない…
  

凛子  le sourire de la deesee Sara nu(ラ・スーリール・ドゥ・ラ・デェス・サラニュー)。  


武尊  女神の微笑み…いや、今、最後なんて…  


凛子  サラニュー…太陽と雲の女神サラニュー。医術の神アシュヴィン双神(そうしん)の母。  


武尊  …  


凛子  待って。


N   書類を開こうとする武尊の手を制す。


武尊  え…。  


凛子  ここには一部しか情報は載ってない。


武尊  どういうことだ。


凛子  まだ全ての情報は渡せない。欲しいなら、私の欲しいものを頂戴。


武尊  なに言ってるんだ、いつも報酬は…


凛子  お金はいらないわ。 


武尊  なんだって…おまえの欲しいものって一体なんなんだ。 


凛子  私が欲しいのはあなたたちが“ムーラン・ルージュ”である理由。  


武尊  な…  


凛子  “ダスラ”って……何なの?  


武尊  それは…


N   緊迫した店内。見つめあう男女。それを邪魔するかのように乱暴に扉が開いた。


武尊  いらっしゃいませ…あ…風助さん。


風助  ビールくれ。


武尊  了解。珍しいね。


風助  ああ。あれ、凛子?


凛子  こんばんは、鳴海警部。


風助  まさかここで会うなんてな。


凛子  本当ね。


武尊  おまたせ。


風助  おまえも飲めよ。


武尊  いいの?じゃあいただきます。


風助  (ビールを一気にあおり)はぁ…おかわり。


武尊  あはは、いい飲みっぷり。飲みたい気分?


風助  今夜はな…。


凛子  “彼ら”が原因?


風助  もう知ってるのか、さすが情報屋。


凛子  ふふ、お生憎さま。夜のニュースで持ちきりだったわよ?
    今夜も怪盗ムーラン・ルージュは華麗に夜の街へと消えていった…ってね。


風助  (苦笑)あと少しだったんだ…なんて、愚痴るわけにもいかないからな。

    まぁ、静かに飲ませてくれよ。


凛子  オーケー、わかったわ。じゃあ私はお暇するから。ご家族同士で楽しんで。


風助  おい、凛子。そんな言い方するなよ。


凛子  拗ねてるわけじゃないのよ?鳴海警部の甥っ子さん贔屓は前から知ってる。


風助  こら。


凛子  嘘よ。明日も早いから、それだけ。またいつでも連絡して。


風助  ああ、気をつけて帰れよ。


凛子  マスターごちそうさま。

    おいしかったわマンハッタン。

    お代ここにおいておくわね。


武尊  …ああ、ありがとう、またな。
  

凛子  (微笑)それじゃ、また。


N   ハイヒールの音を高らかに鳴らし店を後にする彼女の後姿を見ながら、今夜も悪い夢を見る。

               そう武尊は確信していた。 

 

 

【4】


N   武尊は夢を見る。
    弟の大切な競技会への道のりを、父親の運転で向かう昼下がりのドライブ。
    「志のぶは本当におまえが大好きなんだな」と父親が柔らかい笑顔を見せ、その背後から暖かい太陽の

                光が差し込む。
    どちらが眩しいのか分からないなと思った瞬間、突然衝撃が走った。
    視界が反転し、体がふわりと浮く。
    身震いして目を開けると、燃え盛る炎が一面に広がっている。
    父親の姿が見え、血の滲んだ彼の口元が何かを伝えようと動いている。
    答えるために手を伸ばそうとしても、体が言うことをきかない。
    片脚がひどく痛む、痛みに耐えきれず悲痛が口からもれるのと同時に起こる爆音。
    さらに燃え盛る炎、燃えているのは武尊たちの家。
    炎の中には彼の母親が佇んでいる。
    涙を浮かべてこちらを見つめ、何かを呟いているのに轟音にかき消されて聞こえない。
    口元を読もうと目をこらす…それはきっと彼女の懺悔な気がした。
    彼の片脚は凍てついた氷のよう、言うことを聞かずにその場から動けない。
    炎は激しさを増す。紅蓮の月の下で。
    彼女が行ってしまう。彼の父のように。
    
    叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ…。

    彼は夢を繰り返す。


風助  …ける、武尊。おい、武尊! 


武尊  はっ……はぁ…はぁ… 


風助  大丈夫か?
 

武尊  …風助…さん。
 

風助  気がついたか、待ってろ水持って来る。 


武尊  ありがと… 


風助  …ほら、飲めるか。 


武尊  ああ…(水を飲み干す)


風助  大丈夫か?


武尊  うん、ごめん…悪酔いした。


風助  昨日、飲ませすぎたか?


武尊  ううん…あ、今何時?


風助  6時前だな。


武尊  ああ、まだそんな時間なのか。風助さん今日も仕事だろ、シャワー浴びてく?


風助  そうさせてもらえると助かる。 


武尊  朝飯も一緒に食っていけよ、ダリアには俺から連絡入れとく。


風助  悪いな、じゃあシャワー借りる。
 

武尊  ああ。
 

N   武尊はベットから出るとキッチンに向かい、ドリップケトルに水を入れ火にかけた。
    戸棚からコーヒー豆を取り出すとアンティークのミルでグラインドを始める。
    粉状にしたコーヒーをフィルターに入れ、熱湯をゆっくりと流し込む。

    ふわりと豆が膨らむ瞬間が彼のお気に入りだ。
    コクのあるいい香りが立ち込めたのを確認しながら、マグカップに注ぎ二日酔いの喉に流し込む。
    熱さとほろ苦さを噛みしめ、武尊は愛用している包丁を取り出し朝食を作り始めた。
    

ダリア ぴんぽーん。


ナレ  玄関先で間抜けな音真似が聞こえたかと思うと、ショートカットの美少女が入って来た。
    ダリア・梨世(りぜ)・鳴海(なるみ)、鳴海風助の娘であり、藤崎兄弟の麗しの従妹君である。


ダリア Bonjour(ボンジュール)おにーちゃん。


武尊  おはよう、ダリア。コーヒー飲むか。


ダリア oui(ウィ)生クリームと蜂蜜いれて。


武尊  (微笑)かしこまりました。


ナレ  武尊は慣れた手つきでコーヒーと生クリームをカップに入れる。

    蜂蜜をすくうと「これくらい?」とダリアに目で促す。


ダリア それぐらい♪


武尊  はい、お姫様。


ダリア Merci(メルシ)。


武尊  ああ、そういえばダリア…ごめん、昨日アレ使った。


ダリア porte bonheur(ポルト・ボヌール)?


武尊  うん、お守り。


ダリア moment dangereux(モマンダンジュルー)だったの?パパ頑張ったんだね。※危険なひと時


武尊  そうだな、頑張ってたよ。
    

志のぶ …(あくびしながら)おはよ。


武尊  志のぶもね。


志のぶ え?
 

ダリア oui(ウィ)。しぃ、おはよう。 


志のぶ あれ、ダリア来てたの。


ダリア お邪魔してます。
 

武尊  ダリア、もうすぐ出来るから皿とか並べといて。
 

ダリア はーい。 


乃吾  おはようございます、兄さん何かすることありますか?


武尊  おはよ、コーヒー淹れてくれ。俺とダリア以外の。


乃吾  わかりました。


風助  おはよう…あれ、乃吾、ここに置いてた俺のワイシャツ知ってる?お、志のぶ、おはよう。 


志のぶ おはよ。


乃吾  アイロンかけておきました。い、どうぞ。
 

風助  悪いな。
 

乃吾  とんでもない。 


武尊  よし、飯できたぞー。 


ダリア C’est bon ♪(セ・ボン) 


風助  お、美味そうだな。いただきます。
 

志のぶ いただきます。
 

ダリア ふふっ。
 

志のぶ なーんだよ。 


ダリア しぃ、今日も相変わらず低血圧だね。


志のぶ まーな。
 

ダリア あ、ご飯粒ついてる。 


志のぶ え…どこ。
 

ダリア (微笑)反対。 


志のぶ えぇ?どこだよ。 


ダリア ノンノン。そこじゃないよ?


志のぶ だから、どこだよ。


ダリア もう…はい、とれた。 


志のぶ ん。
 

武尊  子供かよ。
 

志のぶ っるせーな。寝起きに色々言ってくんなよ。 


風助  あはは、志のぶの寝起きの悪さと口の悪さは父親譲りだな。


武尊  え、父さんはここまで酷くないよ。


ダリア しぃ、少しはのん君を見習えば? 


志のぶ 何をどう見習うんだよ、ダリアおまえ、あの腹黒兄貴に騙されてるぞ。
 

乃吾  誰が腹黒いですって?詳しく説明していただけますか。


志のぶ え…いや…。 


乃吾  なんですか?はっきり言わないとわかりませんよ? 


ダリア 今日も仲良しね♪ 


志のぶ どこをどう見たら仲良しに見えるんだよ。 


乃吾  仲良しじゃないですか。ねぇ、武尊兄さん。 
   

武尊  そうだぞ、志のぶ。 


志のぶ うるせーよ。 


武尊  わー…なんか今の傷ついた。…風助さんあいつ反抗期かな? 


風助  甘えてるんだよ。昔から志のぶがおまえの事、大好きなのはみんな知ってる。


志のぶ ちょっと、風助さん…。 


ダリア しぃってばツンデレ? 


志のぶ ダリア…どこでそんな言葉覚えたんだよ、しかも俺デレてないし。


ダリア デレて?


志のぶ 嫌だよ。


ダリア えー。 


風助  おっと、もうこんな時間か、そろそろ俺行くわ。朝飯、ごちそうさま。


武尊  いってらっしゃい。 


風助  ダリア、多分今日も遅くなるから。 


ダリア うん。気をつけてね、パパ。 


風助  ああ、いってきます。 


N   風助が去った藤崎家になんとなく共犯めいた空気が漂う。


志のぶ …意外とへこんでねーんだな。 


ダリア そんなことないよ、内心かなり落ち込んでる。


乃吾  昨日の風助さんはかなり冴えてましたからね。


ダリア お守り使っちゃうくらいね。


志のぶ ああ、あれがなかったら正直やばかった。


乃吾  風助さんもまさか追いかけている怪盗が自分の甥っ子で、

    しかも娘の作った発明品で昨日やられたと知ったら落ち込むどころじゃないでしょうけどね。 


志のぶ 悪い笑顔…ほら、見てみろよダリア、あれが腹黒いって言うの。 


乃吾  何か言いましたか? 


志のぶ 別に。


ダリア でもあのお守り、すぐにアルコール摂取できるだけ回復したんだよね?

                んー…まだまだ改良の余地ありってことかぁ。


志のぶ 回復してくれた方がいいんじゃねーの。


ダリア (妖しく笑って)時と場合による♪


志のぶ こわ…。


武尊  あ、そういえば宝石の解析だけど… 


乃吾  もう少しで終わります、昨日はダリアにも手伝ってもらいましたから。 


武尊  いや、その解析は中断してくれていい。 


乃吾  え…どういうことですか。


武尊  …ダスラが見つかった 


志のぶ 嘘だろ…。


乃吾  詳しく教えてください。


武尊  まだ情報が手元にない。


乃吾  どうして…。


武尊  ひとまず時間をくれ。


志のぶ (ため息)ごちそうさま、学校行ってくるわ。


ダリア あ、待って、志のぶ。


N   乱暴に部屋を出ていく音を背中で聞きながら、バツが悪そうに武尊は食卓を片付け始める。


乃吾  凛子さんですか?見返りに何か要求されたとか。


武尊  まあな。


乃吾  …昨日志のぶを戒めたばかりなんですけどね。


武尊  え?


乃吾  責任感が強く一人で抱え込みやすいのも、度が過ぎると周りを傷つけます。
    そもそも発案者は俺だということを忘れないでください。

                そして志のぶやダリア、イヴがいてこそのムーラン・ルージュなんだということも。


武尊  わかってる。


乃吾  よかった。すみません生意気言って。


武尊  いや、助かるよ。


乃吾  それで、凛子さんは一体何が欲しいと言っているんですか?


武尊  俺たちがムーラン・ルージュである理由。


乃吾  へえ、あの人がそんな事を?

    報酬さえもらえればそれでいいビジネスライクな方だと思っていたのですが。


武尊  金はいらないんだそうだ。


乃吾  『タダほど怖いものはない』昔の人はよく言ったものだ。

                …でも彼女になら俺たち家族の過去を話しても問題ないんじゃないですか?
    有力な情報提供や宝石の処理…ダスラが見つかったとなればそれも終わるわけですし、

    今まで尽力して 頂いた事を思えば悪い取引ではないと思うのですが。


武尊  意外だな。


乃吾  え?


武尊  おまえは凛子の事、嫌ってると思ってた。だからてっきり反対するかと。


乃吾  昔の話でしょう?


武尊  そうか。…あのさ、俺、ダスラが見つかったって聞いて、わかったことがあるんだ。


乃吾  わかったこと?


武尊  俺は自分が思っていた以上にこの生活を気に入ってるってこと。
    楽しんでた…。ダスラかもしれない宝石を探し出すことも、風助さんとの攻防戦も全部。


乃吾  それはきっと俺たちもそうですよ。


武尊  その感情はどんどんエスカレートしていく。
    この国の警察は優秀で、追い詰められる事がどんどん増える。
    ギリギリのラインを綱渡りするスリル。
    おまえたちを心配している気持ちに偽りはない。
    だけどそれとは別の感情が膨らんで、どんどん高揚していった。
    そして眠りにつく度…思い知らされるんだ“自分が何をすべきか”を。
    俺はいつも、責務と快楽の間を揺れていた。


乃吾  なるほど。


武尊  ダスラを手に入れればこの生活は終わる。
    悪夢は見なくなるかもしれないけど、これからどんな危険が待っているのかわからない。
    おまえたちにも危害が及ぶ可能性がある。
    …シンプルに言うと怖くなったんだ。


乃吾  予感でもしていたんですか?


武尊  予感って?


乃吾  最近、極端に過保護だったのは…この時間が終わりを迎える予感がしていたからなのかと。


武尊  ああ、それは違う。


N   そう言うと武尊は左脚の裾をあげる。引き裂くように付いた術痕が痛々しい。


武尊  この前、言われたんだ。

    ゆっくり歩く程度の事はできるけど、走ったり、激しい運動は一生できないって。


乃吾  歩けるようになっただけでも俺は…。


武尊  (被せるように)辛いリハビリに何年も通い続けたのは歩くためじゃないよ。
    俺の脚がこうじゃなかったら、おまえたちをここまで危険な目に合わせたりしない。


乃吾  兄さん。


武尊  自分たちの体を大切にして欲しいんだ。


乃吾  …。


武尊  腐って言ってるわけじゃない。俺にできることをしてるだけ…心配くらいさせろよ。
    おまえらが俺に“独りじゃない”って言ってくれてるのと同じ。


乃吾  ええ。


武尊  さて…と。凛子になんて言うかな。


N  そう漏らしながら食器を片付ける兄の姿を見つめ、乃吾は考えを巡らす。


乃吾  あ…。


武尊  ん?どうした。


乃吾  兄さん…提案があります。

 

 

【5】

N   海の近くに位置する帝国芸術大学は、明治時代に設立された由緒ある名門校である。
    創立以来100年以上ににわたり芸術教育研究の中枢として、

    この国の文化や伝統、そしてその遺産を守ってきた。

    数十年前に高等部が併設されてからは特に、数多の優れた芸術家や芸術分野の教育者・研究者を輩出

               している。
    
    そんな高等部絵画科、日本画専攻のクラスの一室。
    放課後。

    作業を終え帰っていく生徒たちが多い中、一人静かにスケッチブックに向かう志のぶの姿があった。
    鉛筆を走らせながら、昨夜の事、そして今朝の兄の言動を反芻している。


志のぶ (深くため息をつく)わけわかんねえ。


雛   悩みごと?


志のぶ っ…!びっくりした、なんで雛ちゃんこんな所にいるの。


雛   こら、ここではなんて呼ぶんだっけ?


志のぶ あ、ごめん、加賀美先生。


雛   よろしい。(微笑)なんてね。

               午後に保健室来た時にコレ忘れてたから持ってきたの。遅くなってごめんね、困らなかった?


志のぶ あれ…俺、筆ケース落としてたんだ。ありがと。


雛   気づいてなかったんだ。


志のぶ 今日はずっとデッサンばっかりだったから。


雛   そっか、ならよかった。

                季節の変わり目で具合の悪い子が多くて、ちょっとバタバタしてて遅くなったから。


志のぶ 誰かに預けてくれてよかったのに、わざわざごめんね。


雛   頭痛ひどそうだったから、様子見たかったの。だから、気にしないで。


志のぶ うん…。


雛   まだ頭痛い?薬の効き目薄かったかな。


志のぶ ううん、もらった薬のおかげでだいぶ楽になったよ。


雛   じゃあ、ずっと眉間に深いシワ寄せてたのは?


志のぶ え、無意識だった。


雛   大学主催の絵画コンクールのことで悩んでる…ってわけじゃないわよね。


志のぶ いや、高等部で選ばれるのって各学科一人だけだし、緊張はしてるよ。


雛   緊張で眉間にシワ?


志のぶ そういうわけじゃないけど。


雛   聞かない方がいい?


志のぶ ごめん、ありがと。


雛   …武尊ちゃんそっくり。


志のぶ え?


雛   よく言われたのよね、それ。高校ぐらいの時から今までずっと。

                この間うちの病院に来た時にも言われたわ。


志のぶ ああ、週一のリハビリね。

                肇じいちゃんにも日常生活には問題ない所まで回復してるって言われたって言ってたな。


雛   おじいちゃん、大学病院での仕事の合間に武尊ちゃんのリハビリの様子見るんだって張り切ってるか

                らね。


志のぶ そっか、有難い話だよな。

    今や帝都医大の名誉教授だもんなぁ…俺にとってはいつまでたっても優しい肇じいちゃんだけど。


雛   …。


志のぶ ?


雛   そうやって話をすり替えるのが上手い所もそっくり。


志のぶ すり替えてるわけじゃないよ。


雛   天然でやってるなら重症よ?


志のぶ 加賀美先生、自分こそ公私混同してない?

    まだ≪幼馴染の雛ちゃん≫が出てくるにはそうだな…あれ?


N   時計を見ると随分時間が経っていることに気が付く。


雛   もう下校のチャイムはとっくになり終わりました。


志のぶ なるほど。


雛   可愛くないこと言ってないでそろそろ帰りなさい。


志のぶ はーい。


雛   あ、そうだ、もし武尊ちゃんに会ったら、今夜お店行くって言っといて。

               今から職員会議だから連絡できないかもしれないし。


志のぶ わかった。俺も行っていい?


雛   大人になったらね?


志のぶ 感じ悪。さっきの仕返しのつもり?


雛   さあ、どうかな。ほら、暗くなってきたし教室でるよ。


志のぶ はいはい。


雛   ねえ、志のぶ。


志のぶ ん?


雛   兄弟そろってため込んでないで、たまには発散しなさいよね。


志のぶ (微笑)そうするよ。

 

 

【6】

N  “Bar ルージュ・ノワール”は名前の通り赤と黒で彩られている。
   赤煉瓦の外壁、墨色に塗りつぶした木目の床、インテリアもすべて赤と黒。
   暖かい照明がうっすらと灯る店内は、不思議と訪れる客の心を落ち着かせる。
   店主の振る舞う酒も料理も絶品で、小さい店ながらも知る人ぞ知る人気店だ。
   帝国芸大付属高校の養護教諭、加賀美 雛(かがみ ひな)もルージュ・ノワールを愛する一人である。
 


武尊  いらっしゃいませ。 


雛   こんばんわ。 


武尊  (優しく微笑んで)雛。


雛   今日はおじいちゃん連れてきたんだ。武尊ちゃんに会いたいって。 


肇   やあ、武尊君。


武尊  肇さん、先日はお世話になりました。 


肇   脚の具合はどうだい? 


武尊  おかげさまで、生活に支障はありません。 


肇   そうか…また何かあればいつでも来なさい。 


武尊  ありがとうございます。 


雛   ね、おじいちゃんなに飲む? 


肇   そうだな…マティーニを頼めるかい? 


武尊  かしこまりました。 


雛   わたしはホット・バタード・ラムにしようかな。


武尊  あれ、疲れてる? 


雛   んー、なんだか最近変な夢見るせいか、寝た心地しなくって。


武尊  変な夢ってどんな?


雛   はっきりとは覚えてないんだけど。わたしが二人いて、ひとりが人をどんどん殺していくの。
    で、最後はわたしが拳銃で撃たれて目が覚める。


武尊  …。


ナレ  武尊はカクテルを作る手を止め、何とも言えない顔で雛を見つめる。


雛   あはは、そんな顔しないでよ。最初は悪夢だ気持ち悪いって思ってたけど、最近同じような夢見すぎ

                て逆に笑えてきてさ。
    それに夢占いでは、自分が死ぬ夢って吉兆なんだって。だから問題なし。


武尊  そうなんだ、ならいいんだけど。


ナレ  ほっとため息をつき、カクテルを仕上げると、コースターと共にカウンターへ置いた。


武尊  お待たせしました。マティーニとホット・バタード・ラムです。


肇   ああ、ありがとう。…雛、疲れすぎてそんな夢を見るんじゃないか?
    仕事が好きなのは良い事だが、あまり無理するなよ。


雛   うん、ありがとう。


武尊  いつ見ても仲が良いんだな。


肇   この子の両親は雛が生まれたころからずっと海外で仕事をしていてね。
    私と亡くなった妻が育てたようなものだから、孫というよりは娘を見ているようなんだよ。


武尊  そうでしたね、雛のご両親はずっと海外に?あまりお会いした記憶がなくて。


雛   武尊ちゃんとは幼馴染でずっと遊んできたけど、確かにお父さんとお母さんに会ったことないかもね。
    あの二人は本当に仕事人間だから、一年に一度帰って来るか来ないかだもん。
    あ、全然話変わるけど武尊ちゃん、志のぶに聞いてる?絵画コンクールの話。 


武尊  いや、聞いてないな。


雛   志のぶね、うちの大学主催の絵画コンクールの高校選抜に選ばれたんだ。
    選抜は各学年一人しか選ばれないから、これってかなりすごい事なのよ。 


武尊  へぇ、そうなのか。 


雛   そうなのかって…兄弟そろってそっけないなあ。本当に何から何までそっくり。


武尊  何から何までって。そうかな?


雛   そうだよ。今日、志のぶと話して再確認したもん。


武尊  (微笑)教えてくれてありがとう。あいつ俺には絶対言わないから、言ってくれてよかったよ。 


雛   なんで? 


武尊  反抗期かな…。


雛   (噴き出して)やだ、武尊ちゃん本気で悩んでるの。


武尊  この間まで、あんなに可愛かったのになあ。


雛   あはは。


肇   その切ない気持ちはよく分かるよ。


雛   え、おじいちゃん、それってわたしのこと?


肇   他に誰がいるんだい?


雛   反抗期がひどかった記憶なんかないんだけどなあ。


N   頬を膨らませてバタード・ラムのグラスを両手で覆う雛。

    その様子を微笑ましく眺めていると、店の呼び鈴が鳴り扉が開く。


武尊  いらっしゃいませ。(小声で)ごめん雛、また後で。肇さんもごゆっくり。 


肇   そうさせてもらうよ。 


武尊  コンクールの日程また教えてくれ、こっそり観に行く。


雛   わかった。……はぁ。


肇   相変わらず、おまえは武尊君にご執心のようだな。


雛   …そんな事ないよ。


肇   武尊君は昔からいい子だからね、気持ちは分かる。
    だけどね雛、彼はやめておきなさい。


雛   え…。


肇   彼とおまえは生きている世界が違う。


雛   おじいちゃん、何言って…。


N   雛の言葉を遮るように肇の携帯電話が鳴った。


肇   すまない…病院からだ。外にでてくるよ。 


雛   うん。 


N   にこやかに笑って店を出る肇。

    店に背を向けた彼の形相はみるみる険しいものになってゆく。


肇   この時間にかけてくるなと言っていたはずだが?……なに、御前が?わかった。すぐそちらに行く。


N   一人カウンターに残された雛は、祖父の言葉に少なからず傷ついていた。

    脳裏に武尊との幼少期の思 い出がよぎる。


雛   痛っ…。


N   突然頭に痛みが走る。 


武尊  どうした?


雛   急に頭が痛くなって…。


武尊  大丈夫か?


雛   うん、もう痛くない。


武尊  そうか、ならよかった。あれ?肇さんは?


雛   病院から呼び出しがあって。


武尊  こんな時間に?


雛   うん、慌てて帰っちゃった。


武尊  帝都医大の名誉教授って悠々自適なんだと思ってたよ。 


雛   ね。私もだよ…おじいちゃんなんだか名誉教授になってからの方がピリピリしてる。 


武尊  忙しいのか?


雛   どうなんだろ、わかんない。 


武尊  わかんないって、おまえ。 


雛   …こうやって夜中に電話がかかって来て、急にどこかに行っちゃうのなんてしょっちゅうだし。

    一緒に いても上の空。仕事の事聞いても何も教えてくれないし、もう、よくわかんないや。


武尊  (苦笑)待ってな… 


雛   え? 


ナレ  そう言うと武尊は慣れた手つきでシェーカーに数種類のリキュールを入れ、素早くシェイクする。
    聞きなれた音が店内に響き、それが静まると、ゆっくりとグラスにスミレ色の液体をそそいだ。


武尊  “ブルームーン”、俺のおごり。


雛   武尊ちゃん… 


武尊  今夜はゆっくり聞くから、なんでも話せよ。 


雛   ありがと。 

 

 


【7】

ダリア Bonjour(ボンジュール)。はじめまして、情報屋さん。


N   どうして自分の事を知っているんだろう?
    そう思うよりも先に美しい子だと思った。
    小柄な彼女はにっこり微笑むと、凛子にそっと近寄ってこう言う。


ダリア ダリア・梨世・鳴海です。(妖しく微笑んで)私たちの秘密…知りたい?


N   一瞬で察しをつけた凛子の腕を掴むと、ダリアは予想外に強い力で引っ張っていく。


ダリア "On y va ! "(オンニヴァ!)※レッツゴー!


凛子  ちょっと、ねえ待って。


ダリア 待たない♪早くあなたの情報が欲しいの。


凛子  っ…どこへ行くの?


ダリア 行けば分かる。


N   どんどん人気のない所へ進み、がらんとした空き地の前に立つ少女。

    こちらにふわりと微笑みかけるとそこに足を踏み入れる。
    凛子も習って一歩踏み出すと、一瞬で空き地は無機質でメタリックな外壁と地面に変わった。


凛子  …?


ダリア びっくりした?

    ≪自分のいつも見ている景色が本物なのか≫なんて、誰も考えないわよね♪


凛子  一体どんなトリックが…


ダリア ノンノン。マジックと一緒、タネがわかったらつまらない。


凛子  なるほどね。


ダリア 呑み込みが早い人って好き。ねえ、鳴海がもともと由緒ある家柄なのは調査済みでしょう?


凛子  ええ。


ダリア ここは旧鳴海邸の地下道なの。


アダム★Welcome. Please enter a personal identification number. ※ようこそ。暗証番号を入力してください。


凛子  ?!


N   機械的な音声が聞こえたかと思うと、壁からキーボードが浮き出てくる。
    ダリアの細い指が素早く動く。


アダム★Thank you. The next step is to ask for fingerprint authentication. ※感謝します。次は指紋認証をお願いします。


ダリア オーケー。


アダム★Great. ※素晴らしい。


N   機械音が鳴り響くと、柔らかい女性の声が彼女たちを迎える。


イヴ  おかえりなさい、ダリア。皆さんそろってお待ちです。


ダリア ただいま、イヴ。


イヴ  そちらの女性は? 


ダリア 峰岸凜子さん。私たちの協力者よ。
 

イヴ  新たに彼女のデータを記憶しますか?


ダリア evidemment♪(エヴィダモン)※もちろん


イヴ  了解。


凜子  ねぇ、ここは… 


ダリア ここは2体のAIによって守られている“ムーラン・ルージュの秘密基地”。

                指令室であり、解析用のラボでもある。
    彼女はイヴ、管理のほとんどを彼女がしているわ。
    そしてそれを補佐しているのが最初に現れたアダム。
    アダムにはイヴほどの知能指数はないけどセキュリティ対策に特化しているの。 


凜子  さっきのデータっていうのは?


ダリア このラボに入った瞬間、顔や指紋の認識データ、身体的な特徴に関わる情報が読み取られて審査され

               るの。
    データの無い人物は侵入者とみなされて排除される。だからあなたのデータをイヴに記憶させたわ。


凜子  排除って…。


ダリア oui(ウィ)。文字通り、は・い・じょ♪…なんてね。
    イヴは“あらゆる手段で排除します”なんて言ってるけど、まだ侵入されたことがないからわからない。
    さてと、この先におにーちゃんたちがいるわ。


凜子  そう、それにしても驚いたわ。
    地下にこんな施設があるなんて…怪盗ムーラン・ルージュが捕まらない理由の一つがコレってことね。


ダリア あなたって随分“順応性”が高いのね。


凜子  なにそれ、どういう意味?


ダリア 普通もっと戸惑わない?
    アダムならまだしも、イヴみたいなAIを見るのは初めてよね?
    それにこのハイクヲリティな設備を見ても大して驚いてない。
 

凜子  目ざとい子ね、さすが血縁者。(微笑んで)情報屋を甘く見ないことね。
    あなたが最初に言っていた通りよ。
    今、目に見えてることが全てじゃないわ。
    あなたにだって知らない事はまだまだたくさんある。
    何が正解かなんてわからない…世界は嘘で溢れてるんだから。


ダリア ふーん、だからあなたも嘘を纏うの?


凜子  嘘は女のアクセサリーだもの。


ダリア おもしろい人ね。


ナレ  興味深そうにダリアは凛子を見つめてから、子供らしからぬ妖艶な笑顔を向けると、目の前の扉を開

               いた。


ダリア おにーちゃん、おまたせ。連れてきたわよ、お客様♪


武尊  ダリア。


乃吾  ようこそ、凛子さん。


志のぶ よ、久しぶり。


武尊  よく来てくれたな。


凛子  お招きありがとう。これがこの間の答え?


武尊  ああ、おまえの要求を飲む。全部話すよ、俺たちがムーラン・ルージュである理由を。

 

 

【8】

N   バスローブ姿で濡れた金髪を吹き上げながら、フランシス・葵・ヴェルヌは携帯電話を手に取った。


フラン Allo?(アロ?)
 

賢心  …日本にいる時くらい、日本語で話したまえ。


ナレ  相手のイラついた様子に気も留めず、グラスに氷とウォッカを淹れながら彼は言葉を進める。
 

フラン おお、これはこれは、あなた自らご連絡を頂けるとは。
    今日は美しい秘書の方は“vacances(バカンス)”かい?賢心(けんしん)? 


賢心  …… 

 

フラン Monsieur(ムッシュ)? 


賢心  くだらない質問は結構だ、そして私のファーストネームを呼ぶことを許可した覚えはない。 


フラン それは失礼、Monsieur(ムッシュ)“藤崎”。それで?…ああ、君のお孫さんたちならすこぶる元気だよ。
    今から直接会いに行く。 


賢心  君に言われずとも承知している。 


フラン おやおや、相変わらず彼らには甘いようだね。 


賢心  …知った口を… 


フラン ふふ、いつか君たちの感動の再会を演出させて欲しいものだね。 


賢心  戯言はそこまでだ。
    本題に入らせてもらう…峰岸凛子と連絡が取れない。


N   緩んでいた口元に緊張が走る。


フラン Pourquoi?(プークワ?)なぜ?どういうことかわからないが。 


賢心  君は来日してから彼女と会ったか? 


フラン いいや、彼女とは会っていないよ?もちろん、武尊たちともね。


賢心  嘘をついても君のためにはならないと思うが。
 

フラン 嘘?心外だな。


賢心  調べようと思えばどうにでもなる。
 

フラン それをしないのは、あなたが彼女を探しているのを気づかれてはまずいからだろう?
    だから僕に探りを入れているとういうわけだ。
 

賢心  …彼女の行き先がわかったらすぐに知らせろ。
 

フラン それは命令かい?
 

賢心  (冷笑)何を言っている、これは友人としてのお願いだよ。
 

フラン なるほど… 


賢心  S'il vous plait?(スィルブプレ) ※お願い


フラン ……C'est bon.(セ・ボン)わかったよ。
 

賢心  では… 


フラン bonne nuit(ボンヌ・ニュイ)いい夢を。 


ナレ  ガチャリと切れた音を聞きながら考えを巡らせ、彼は鞄から別の携帯電話を出しコールボタンを押す。
    数回コール音が鳴り響いた後、相手は不機嫌そうに電話に出た。


毬緒  Allo?(アロ?) 


フラン Ma belle.(マ ベル) Ma belle=僕の美しい人


毬緒  ……ファニー?
 

フラン やぁ。


毬緒  どの面下げて連絡をよこしたんですか。


フラン ん?どういうこと。


毬緒  “人に全てを押し付けて”…あなた今、日本にいらっしゃるのではありませんか?
 

フラン ああ。今、日本からかけてる。
    だから君の母国語で話してるんじゃないか。
 

毬緒  …ご用件は? 


フラン 冷たいな~Ma belle ?(マ ベル) 


毬緒  私はあなたの所有物ではありません。
    それに何度も申し上げますが私の性別は男…馬鹿にしているんですか。 


フラン (微笑)手厳しいな君も、馬鹿になんかしていないよ? 


毬緒  こちらはまだ勤務中なんです。
    あなたのせいで仕事も増えて忙しいですし。


フラン あれは完成間近?


毬緒  …ええ、近日中には。


フラン 移植用のチップの実験結果はどうだい?


毬緒  ヒト細胞で実験し、安全性も70%までは確定しています。


フラン 70か…。


毬緒  …合格ラインとはいえ、副作用の心配がないとは言えません。


フラン なら君が直接持ってきてくれ。


毬緒  は?


フラン 彼に早く渡したいんだ、君が来てくれた方が色々とスムーズだしね。いいだろ?


N   有無を言わさないフランシスの様子に毬緒は溜息をつきながら手を振って答える。


毬緒  …わかりました。


フラン それともう一つ。


毬緒  手短に。
 

フラン Mon chaton(モン シャトン)…… 


毬緒  Pardon ?(パードゥン)※なんて?
 

フラン 子猫を一匹探して欲しいんだ。 


毬緒  …あなたは本当に回りくどい言い方をする。 


フラン そこが魅力の一つだよ? 


毬緒  おだまりなさい。
 

フラン ふふ、いいね。 


毬緒  なにがですか? 


フラン “血塗られた女神”に叱られるのも悪くないと思ってね。
 

毬緒  …国際電話で助かりましたね、フランシス・葵・ヴェルヌ。
 

フラン 怒っているのかい?フルネームを読み上げる時はいつもそうだ。
 

毬緒  わかっていてそれだから…はぁ…あなたは本当にタチが悪い。ムッシュ藤崎や彼らに同情しますよ。
 

フラン ひどいなぁ、僕はただ彼らを心から愛しているだけなのに。勿論君のこともね、Ma belle ?(マ ベル) 


毬緒★ …va en enfer(ヴァ アン アンフェール) . ※地獄に落ちろ


フラン 君がエスコートしてくれるのなら喜んで。 


毬緒  埒(らち)が明きませんね。 


フラン 楽しいだろう? 


毬緒  ところで子猫ですが… 


フラン さすが、仕事が早いね毬緒。 


毬緒  ムッシュ藤崎が見つけられないのも仕方がありませんね。 


フラン ということは…やはりそうか。 


毬緒  想定外ですか? 


フラン そうだね。
    まさか彼女が子猫を招き入れるとは思わなかったよ。
    可愛い武尊たちの顔もみたいし、僕もお邪魔しに行こうかな?
    …彼らの秘密基地に。

 

 

【9】

武尊  少し昔話をしよう。


N   機械だらけのその部屋で、凛子を見据えながら武尊は神妙な面持ちで口を開いた。


武尊  俺たちの曾祖父、ジャン・ヴェルヌはフランス人で、フランスの医療機関で新薬の研究をしていた。
    彼は開発チームのチーフとして医療に役立つ薬品を世に送り出していると信じていたが、ある日それ

                が間違いだという事に気付いた。


乃吾  開発していた薬が、人を一瞬で死に至らせる劇薬だということがわかったからです。
    ジャンは上層部に抗議しましたが聞き入れられることはなく、彼は開発チームからも外されました。


志のぶ やつらは最初からその薬を、細菌兵器として使おうともくろんでいたんだ。
    まだはっきりとはわかってないけど、その医療機関はなんらかの組織と通じている。


武尊  そしてその劇薬の名は通称…。


凛子  細菌兵器アシュヴィン。


武尊  …なぜ、その名前を? 


凛子  戦時中に使われるはずだった幻の細菌兵器、裏でまことしやかに流されてる噂よ。
    ダスラという名前を聞いた時もしかしてと思ったけど…。


武尊  細菌兵器アシュヴィン、インド神話における医術の双神(ふたかみ)の名を持つ劇薬。
    アシュヴィンは二つで一つ。双方がそろわないと効果がないように細工され、その秘密は宝石の中に

                隠れている。
    ジャンは医療機関にあるデータを全て破壊して、宝石を持ち出したんだ。 


凛子  その一つが女神の微笑み? 


乃吾  双神から名を取って、それぞれに“ナーサティヤ”と“ダスラ”という名がつけらました。


志のぶ 一つはジャンの死後、宝石商の手を転々と渡り、もう一つは…俺たちの母さんが持ってる。 


凛子  え…?


武尊  俺たちとジャン・ヴェルヌは血は繋がっているけど戸籍上は赤の他人だ。


乃吾  彼は俺たちの曾祖母である鳴海千鶴と結婚を誓い合っていました。
    ですが、戦争が二人を引き裂き…千鶴のお腹に彼の子供がいると知らないままジャンは彼女に別れを告

               げたんです。


武尊  鳴海家の一人娘である千鶴に子供が出来たと知った父親は激昂した。彼女には許嫁もいたからね。


乃吾  婚約も破断同然かと思われていましたが、そうはならなかった。許嫁の男性が身ごもった千鶴を許した

                からです。
    …彼には秘密があった。
    幼少期に流行り病に侵され“子供のできない体”になってしまったということ。


志のぶ 婿養子に子供ができないとなれば破談は必定。
    千鶴に惚れていたその男は自分の秘密を打ち明け千鶴に結婚を申し込み、彼女はその申し出を受けた。


武尊  その後…子供が生まれ、男は生まれてきた子供を我が子の様に愛した。 
    千鶴の父親も、生まれてきた子が男の子だと分かると、重たい首を縦に振って仕方なく彼女を許したら

                しい。


乃吾  そして戦争が終わり何年も経った後、千鶴のもとに一通の手紙と宝石が送られてきたんです。


志のぶ それがナーサティヤ。自分の身に危険を感じたジャンは、かつて別れた日本の恋人にナーサティヤを送

                ったんだ。


乃吾  海を越えたこの国までは組織も手が出せないと思ったんでしょう。
    鳴海家は当時では名家でしたし、屋敷内外の警備は厳重だったと聞いています。


武尊  そして、彼女は余生を終え、ナーサティヤは鳴海家で代々引き継がれていった。 


凛子  ねぇ… 


武尊  ん? 


凛子  鳴海警部がいるのに、どうしてあなたのお母様がナーサティヤを? 


武尊  それは…風助さんの亡くなった奥さんが母さんに託したからなんだ。 


凛子  託した? 


武尊  風助さんはナーサティヤを奥さんであるエヴァンヌさんに送った。
    だけど彼女はダリアを産んですぐに亡くなったんだ。
    最期を看取ったのは母さんだった。
    “2人のことをお願い”と言って彼女は宝石を一緒に託した。


凛子  そうなの… 


武尊  母さんはジャンと同じ道を歩み、大学病院で新薬の研究をしていた。
    仕事の忙しい人だったけど俺たちをとても可愛がってくれていたし、父さんとも本当に仲が良かった。
    良い家族だったよ。7年前のあの日までは… 


凛子  あの事故ね。 


武尊  …突然だった。俺は父親と左脚の自由を失った。 


凛子  …。 


武尊  それから数カ月後に母さんは放火事件を起こしたんだ…。


凛子  どうしてお母様は…
 

乃吾  先ほどから何度か出てきた“なんらかの組織”が関係しているのだと俺たちは考えています。
    あの事故も組織に仕組まれていたのかもしれません。


志のぶ だから母さんは自分の研究に関するものや、俺たちとの思い出も全て燃やして消えたんだ。
    ナーサティヤと一緒に…俺たちを巻き込まないために。


武尊  でも俺は納得できなかった。
    父さんの死の真相も母さんが放火事件を起こして失踪した事も。
 

凛子  だから調べたのね?


武尊  3年かけてジャンと鳴海家の関係にたどり着き、さらに2年かけて俺はアシュヴィンの真相を知った……


フラン おいおい、そこは端折らず話してくれてもいいんじゃない?


N   ガチャリとドアを開くと、フランシスが悠々と入ってくる。
    彼は部屋を見回し不敵に笑い、その美しい金髪をかきあげるとこう言った。


フラン 僕と武尊の馴初めを。
 

武尊  ファニー!


凛子  っ…。 


フラン Bon soir. (ボンソワール)みんな、久しぶり。 


乃吾  こちらに来ているとは聞いていましたが…。


志のぶ おまえ、なんでここに。


フラン 旅行だよ、旅行!僕が日本が大好きなこと知ってるだろう?長期の休暇が取れたから、遊びに来たんだ。


志のぶ いや、そういう事を聞いてるんじゃなくて…


フラン それはそうと志のぶ、少し背が伸びたんじゃないかい?


ナレ  そう言って愛おしそうに頭を撫でるフランシスの手を志のぶは恥ずかしそうに振り払う。


志のぶ だぁっ!もう、触んな!子ども扱いしてんじゃねーよ。


フラン 僕にとって君はいつまでたってもmon petit loulou(モン プティ ルル)だよ。※私のかわいこちゃん


志のぶ は?ルルってなんだよ。


フラン ああ、それは…


武尊  (遮るように)言わなくていい。


ダリア ファニーっ♪


フラン ダリア!ますます美しくなったね、嬉しいよ。
    まさかここでみんなに逢えるなんて、僕たちはやはり血の運命で繋がっているんだね!
 

乃吾  フランシス、その汚い手を放しなさい。何故自宅ではなくここへ来たんです何が目的ですか?


フラン いてて、そんなに強くつねることないじゃないか乃吾。
    もちろん…麗しのイヴに会いに来たんだよ。本当に彼女はいつ見ても美しいね。


武尊  相変わらずだな、ファニー。


フラン それはそうと武尊、そちらの Mademoiselle(マドモアゼル)は?
    君のMon chaton(モン・シャトン)? ※Mon chaton=my子猫ちゃん


武尊  ばっ…!


凛子  え? 


武尊  ばかかおまえ。しかもそのフランス語おかしいだろ!?
 

フラン どうしてそんなに慌てる必要があるんだ。
 

武尊  うるさい。
 

凛子  …? 


フラン Bonjour Mademoiselle(ボンジュール マドモアゼル)、フランシス・葵・ヴェルヌです。
    武尊たちとは親戚ってやつかな?どうぞ“ファニー”と呼んで下さい。


凛子  …。
 

フラン どうされました?マドモアゼル。


凛子  いいえ、はじめまして…峰岸凛子です。 


武尊  (ため息交じりに)興がそがれたな。


フラン ん?もしかして僕は君たちの邪魔をしてしまったのかい?


志のぶ もしかしてじゃなくて、邪魔なんだよ、じゃーま。
 

フラン ひどいな志のぶ!!久々に再開した愛する僕にそんな罵声をあびせるなんて。
 

志のぶ 相変わらずめんどくさい奴だな、おまえ。


フラン なんだい?めんど…ん?新しい愛の言葉かい?


志のぶ ファニー!おまえわかってて言ってるな!?


フラン Je ne comprend pas.(ジュヌ コンポンパ)何を怒ってるんだ?
    僕には日本語はまだまだ難しくてね。 ※わからないよ


武尊  からかうのもその辺にしとけ。 


フラン★ははは、それはそうと足はだいぶよくなったのかい?
    …Je tiens a accompagner(ジュディア・ヌ アコンパーニア)?※エスコートしようか?


武尊☆ Ca, c'est la meilleure (セ・シラ メユラ)
   (微笑)おまえのエスコートなんか受けたら、地球の裏側に連れて行かれそうだ。※傑作だね


フラン Merci.(メルスィー)ところでみんな真面目な顔をして、一体なんの話をしていたんだい?


武尊  ああ、邪魔ついでに聞いて行けよ、おまえにも報告したかったし。
    ダスラが見つかった、その情報提供を受ける前に彼女に今までの経緯を話していたんだ。


フラン ほぉ…なるほど。


乃吾  フランシスの登場は予想外でしたが話を進めましょう。
    凛子さんに質問が無ければ、ダスラの事について伺いたいのですが。


凛子  ええ、わかったわ。


N   凛子は小さく深呼吸すると、足を組み替え切り出した。


凛子  フランスからホープ・ダイヤモンドがやってくることが分かったの。
    展示されるのは帝国美術館。


ダリア ホープ・ダイヤモンド…それってスミソニアン博物館の?


凛子  いいえ、それとは別物…最近発見されたのよ。
    武尊には伝えたけれど鑑定の結果この宝石は…。


N   凛子は武尊に視線をなげる。彼は軽く息を吐くと彼女の言葉を続けた。


武尊  この宝石は“第二次世界大戦以降、行方が分からなくなっていた”ホープ・ダイヤモンドの一つだとわか

                った。 


乃吾  なるほど…。


志のぶ まじか…。


ダリア ん?ダリア全然わかんない。


フラン 武尊、ダリアは知らないのかい?


武尊  …ああ、今までダリアには俺たちが探している宝石や彼女の母親の死について詳細は話していない。


ダリア どういうこと、おにーちゃん。


フラン 武尊たちの気持ちも分かるがね。


乃吾  兄さん…。


武尊  わかってる。…ダリア、おまえの母親…エヴァンヌさんは、殺されたんだ。


ダリア …殺された…。


乃吾  ダリア…。


ダリア …大丈夫。


武尊  …まずはホープダイヤモンドについてのおさらいをしよう。
    古来、宝石という物は人々を魅了してきたが、中でも一際大きな宝石には奇妙な話や恐ろしい噂が付き

                物だ。
    そして最も有名な宝石の一つが“ホープ・ダイヤモンド”。
 

フラン 17世紀にフランスの貿易商が、インドから持ち帰ったことが始まりと言われている。
    112.5カラットのブルー・ダイヤモンド…彼はその宝石をインドのある寺院の像に埋め込んであっ

                た所から盗んだ。


乃吾  この宝石にまつわる呪いは、この一人の貿易商の罰当たりな行為から始まるんです。


志のぶ 貿易商はそのダイヤを当時のフランス国王『ルイ14世』に売った。
    そして莫大な金を手に入れたはずだったが、不思議なことにその後ひどい財政難に苦しみ、ロシアへの

                途上中に死んでしまった。
    …これがこの宝石の最初の犠牲者。


武尊  フランス王家の宝となったこの宝石は、ハート型にカットされて『フレンチ・ブルー』と名付けられた。
    何故かルイ14世は呪いを受けなかったようだけど…その後、幾人かの王家の人々を経て、宝石は『ルイ

    16世』の手に渡った。
    そして王はそれを愛する『マリー・アントワネット』に贈ったんだ。 


乃吾  歴史を見れば分かる通り、宝石の呪いか否かはわかりませんが、王も王妃もフランス革命で処刑されま

    した。 


志のぶ 宝石を王妃から時々借りてたっていう女が暴徒に八つ裂きにされてしまった…っていうおまけつきでな。


ダリア 随分怖い話ね。おさらいはもういいわ、ホープダイヤモンドとダスラの関係について教えて。


凛子  ホープダイヤモンドはフランス革命の最中に紛れて盗まれ、いくつかにカットされてヨーロッパ各地へ

    と渡ったの。
    特徴は透き通った美しいブルー。怪盗ムーラン・ルージュはいつも宝石を狙っていたわよね?
    美しいルビーやサファイアと一緒に装飾されていた宝石もあったし、気づかれないように他の宝石も盗

    んでいたようだけど。
    …狙いは青みがかったダイヤのみ。


武尊  いつから気づいてた。


凛子  (微笑)随分前から。


武尊  ダリア、鳴海家に代々受け継がれてきた宝石“ナーサティヤ”もブルーダイヤモンドだったんだ。 


ダリア 呪いのブルーダイヤ…。


凛子  展示されるこの宝石には“女神の微笑み”という名がついているの。
    フランス名は、le sourire de la deesee Sara nu.(ラ・スーリール・ドゥ・ラ・デェス・サラニュー) 


ダリア 太陽と雲の女神サラニュー。インド神話における医術の神アシュヴィン双神(そうしん)の母。 


フラン インドから運ばれた宝石に、インド神話の双子の神、ナーサティヤとダスラ…因果を感じるね。
 

武尊  サラニューの名がつけられたこの宝石、行方不明になった年代からも“ダスラ”である可能性が高い。


乃吾  ダリア、エヴァンヌさんが帝国美術館の学芸員だったのは知っていますね。


ダリア まさか…。


乃吾  ええ、彼女はホープダイヤモンドの研究をしていたんです。


武尊  風助さんからもらったダスラを最初に調べていたのは彼女だ。
    エヴァンヌさんが殺されて、事故で父さんが死んで、母さんは家に火をつけて消えた。
    全ては宝石が関係しているのかもしれない。
    母さんは死に際にそれを聞いてジャン・ヴェルヌにたどり着いたんだろう。 
    あの事故も作為的なもので、だから母さんもあんなこと…。


ダリア …呪いなんかで、片付けさせない。


乃吾  ダリア。


ダリア ラボに行ってくる。だいたいの話はわかったし、ダリアは…ダリアのできることをする。


N   今にも泣きだしそうなのを堪えながらダリアは部屋を後にする。
    乃吾は武尊に視線で合図をしダリアの後を追った。


武尊  凛子、そのダイヤはいつ日本に?


凛子  5か月後よ…それと帝国美術館の館長が変わったわ。
    かなりやり手って噂。彼女の指示でセキュリティもかなり厳重になってるみたい。
    詳しいデータは全てここに入ってるわ。


N   凛子はUSBメモリを差し出しながらそう言った。


凛子  また情報が入ったら知らせる。


武尊  ありがとう。志のぶ、準備するぞ。


志のぶ うん。


武尊  イヴ、このデータをインストールしてくれ。


イヴ  了解。


フラン とても興味深い時間だった。武尊、今日のところはお暇するよ。


凛子  わたしも。


武尊  そうか、じゃあ送る…


フラン (被せるように)では、武尊も忙しいだろうからMon chaton(モン シャトン)はこの僕がをお送りし

    よう。


武尊  え…。


凜子  結構よ。一人で帰れるわ。


フラン ノンノン。夜道は危険だ、僕が君を華麗にエスコートするよ。
    さぁ、お手をどうぞ、Mademoiselle(マドモアゼル)。君とはゆっくり話をしたいと思っていたんだ……ね?


N   にこやかに笑っているように見えるが、射抜くような瞳を前に凜子は押し黙る。


凜子  …(溜息)わかったわ。


フラン ★C'est splendide.(セ スプレンディドゥ)では、行こうかMon chaton(モン シャトン)。

    諸君、また会おう!  ※素晴らしい


N   強引にも見える様子で去るフランシスの後姿を、武尊と志のぶは呆然と見送った。

 

 

【10】

凛子  どういう事なの?


N   不機嫌そうに凛子はセブンスターに火をともすと、日が落ちた空を見上げ、

    ため息交じりに隣に投げかける。


フラン それはこっちの台詞だよ凛子、今日の武尊たちとの密談は彼の指示ではないだろう?


凛子  …。


フラン 武尊たちに深入りするなと再三言われたのを忘れたのか?
    (ため息)まぁ、武尊は“il est joli(イレジョリ)”…いい男だからね。  ※いい男


凜子  彼から何か言われたのね。


フラン わかっているなら話は早い、賢心…いや、君の雇い主と言ったほうが正確だね。彼が君を探しているよ?
    この僕に“お願い”するくらい必死にね。


凛子  探している?この数時間連絡が取れないだけで?それに彼は私を監視させているはず。
    逃げも隠れもしていないのに探される覚えはないわ。


フラン あの地下室は秘密の花園なんだよ、この国の技術では到底見つけることはできない特別なね。

    賢心が見つけられないのも当然だ。


凛子  もしかして、あの地下室は…


フラン その質問はしない方がいい。


凜子  …。


フラン それにしても君は彼らに関わりすぎだ。それがどんなにリスクがあることかわからないわけじゃないだ

    ろう?


凜子  自分の利益のためにやってるわけじゃないわ。

    隠し事も裏切りも…もう嫌なの。わたしなりに彼らの力になりたいと思った結果よ。


フラン おやおや、君にそんなことを言わせるなんて、妬けるね。


凜子  馬鹿にしないで。


フラン ★Ce que femme veut, Dieu le veut.(ス ク ファム ヴー、ディウー ル ヴー)

    ※女が欲すること、神はそのことを欲する


凜子  何を言ってるの?


フラン 女性がああしたいこうしたいと駄々をこねだしたら、誰にも…もう止められない。
    それなら神の意思だと思って望みを叶えてやるしかない。


凜子  …。


フラン 君はとてもデリケートな立場にいる、それはわかっているね?凛子。


凜子  …ええ。


フラン リスクは一人で追うものではないよ?


凜子  あなたと手を組めと?


フラン 二つの悪の中では、最も小さいものを選ぶ必要がある。さぁ…君はどちらを選ぶ?


凛子  わたしがあなたを選ぶと思っているの?


フラン 僕のこと信用できない?これでも武尊と同じ血が流れてるんだよ?


凛子  (ため息交じり)あなたが武尊たちと血縁関係にあっただったなんて。
 

フラン ジャン・ヴェルヌは僕の曾祖父でもある。武尊とは彼がフランスに来た時に初めて会ったんだ。
    彼にアシュヴィンの事を教えたのも僕だ。
 

凛子  彼はあなたが何者か知らないのね。


フラン 教える必要もなかったからね。


凛子  フランス国家警察、対テロ組織特別諜報部員。
    情報を得るためには手段も犠牲も厭わない…通称“pierrot sanglant(ピエロ・サングラント)”。
 

フラン 血塗られた道化師、その名は気に入っているよ?

 

 

【11】

ナレ  “秘密基地”と呼んでいるラボのモニター前で、肩を落とし寂しげな表情を浮かべるダリア。


ダリア ママ…。


N   開いている扉にコンコンと小さくノックをして、乃吾が心配そうに顔をのぞかせる。


乃吾  ダリア


ダリア のん君…。


乃吾  ずっと黙っていて、すみませんでした。


ダリア …ううん、ダリアの事を思ってくれての事だってわかってる。


乃吾  それは…


ダリア そんな顔しないで。ダリアは今できることを全部やりたい。


乃吾  …わかりました。イヴ、全てのモニターを起動して、帝国美術館のデータの表示を。


イヴ  了解、起動します。


N   イヴはラボにある数台のモニターを起動させ、先ほど新たに更新したデータを合わせ順に表示していく。
    ふと、彼女は違和感を察知した。


イヴ  ダリア、心音に乱れがあります。体温もいつもより低いようですが、体調が悪いのですか?


ダリア イヴには適わないな。Merci.(メルスィー)大丈夫だよ♪


イヴ  …そうですか。
    表示完了、新しいデータがありますが先に確認しますか?


乃吾  聞かせてくれ。


イヴ  今回のターゲットは5か月後、帝国美術館に展示されるホープダイヤモンド“女神の微笑み”。
    6号館のメイン会場に展示予定。
    現段階で分かっているターゲットまでのセキュリティの箇所は3つ、残りは武尊が捜索中。


乃吾  3ヶ所のセキュリティの認証方法は?


イヴ  20ケタの暗証番号・館長の網膜認証・館長が身につけている鍵での解錠。


乃吾  その鍵とは?


N   イヴは一枚の写真を大きくモニターに映す。


ダリア ネックレス。


イヴ  マイクロチップが内蔵されています。


乃吾  形状・材質の詳細は?


イヴ  材質はアレキサンドライト、形状は算出しています。


ダリア そのデータ私のスマホに送って、中のマイクロチップを取り出すのに時間がいるから模造品を作るわ。


乃吾  お願いします。その他に俺たちがしなければいけない事はわかりますね?


ダリア 帝国美術館にハッキングを仕掛け、暗証番号を入手する。
    館長の個人情報にアクセスして網膜データが手に入ればコンタクトはすぐ作れるよ♪


乃吾  それから?


ダリア 指紋と音声データも必要?


乃吾  よくできました。


ダリア じゃあ、まずは帝国美術館のメインシステムに侵入。ダリアが主導でやっていい?


乃吾  (微笑)


ダリア ん?なに?


乃吾  いえ、あらためて女子高生が言うセリフではないなと思って。


ダリア なにそれ、誉めてるんでしょ?


乃吾  そうですね。では、はじめましょうか。


ダリア うん。イヴ、バックアップしっかりとってね。


イヴ  了解。


乃吾  十分気をつけてください。


N   キーボード素早く打つ細い指が一瞬止まり。

    横目でちらりと乃吾をとらえながら、ダリアは怖いくらい綺麗に笑う。


ダリア evidemment♪(エヴィダモン)誰に言ってるの、のん君?※もちろん


N   瞬間、乃吾の背筋に冷たいものが走る。


乃吾  …。


イヴ  ノア、急激な体温の変化を感知しましたが、どうしたのですか?


乃吾  黙ってなさい。


イヴ  …了解。


ダリア イヴに意地悪しないで、のん君。


乃吾  彼女はAIにしては随分お節介なもので。


ダリア 寧々ママが作ったんだもん、当然でしょ?


乃吾  そうですね。母さんは本当に優秀な人だったから。


ダリア 子供のころから寧々ママが作ってくれるマシンがダリアのおもちゃだった。
    もちろんイヴはおもちゃなんかじゃないけど、最高のプレゼントを残してくれたよね。


乃吾  なぜ母さんはダリアにイヴの鍵を預けたんでしょうね。


ダリア わかんない。「誕生日プレゼントだよ」って渡されただけだもん。


乃吾  イヴを使って警視庁のメインシステムにハッキングしたのは中学生の時でしたか…。


ダリア ママや安吾おじさんの事故の事知りたかったの。

    だから…ママは殺されたんじゃないかなって…初めから思ってた。


乃吾  そうだったんですね。


ダリア  …のん君。


乃吾  どうしました。


ダリア 絶対に成功させようね。


乃吾  もとより、失敗させるつもりはありません。


N   そう言って、乃吾がエンターキーをたたくと、モニター画面が赤く点滅し警戒音が鳴った。


イヴ  帝国美術館メインシステムゲート到達。


N   画面に流れる無数の数列にダリアは息をのむ。


ダリア イッツ…ショウタイム。


N   彼女は一層キーボードを打つ手を早めた。

 

 

【12】

N  数週間後の昼下がり、全速力で走る天然パーマの青年が一人。
    彼は警視庁刑事部捜査二課、知能犯捜査係の新米刑事である。


みこと 鳴海警部ーーー!


N  彼の名は不知火(しらぬい)みこと。
    某有名漫画に憧れ刑事になったという、彼の髪型同様ゆるふわな男である。


紫   不知火!廊下は走るなって言ってるでしょ!


N   みことの後方から大声が聞こえたかと思うと、ずんずんと威圧的に彼のもとへ女性が向かってくる。
    彼女もまた、二課の刑事だ。


みこと あっ、す、すみません、あ、あの鳴海警部を探してて…


紫   “すみません”じゃない。“申し訳ありません、山南(やまなみ)大先輩様”でしょうが?!


N   そう言うと山南 紫(やまなみ ゆかり)はみことの片耳をつねり上げる。


みこと いっ!!痛ぃ!!


紫   ほぉら、なんて言うのかなぁ?


みこと も…申し訳ありませんでした!!!山南大先輩様っ。


紫   あーん?なんだって?聞こえないなぁ?


N   普段は快活で聡明であり、可愛らしい外見から警視庁のファンも多い彼女だが…
    実のところ口が悪く、沸点も低く、不知火刑事への当たりは人一倍きつい。
    この光景は警視庁でも有名であり…日常である。


林瑠  もう勘弁したれや、紫(ゆかり)。


N   そして、彼らの先輩である佐伯 林瑠(さえき しげる)が止めるのもまた、日常だった。
    関西出身の彼は物腰柔らかに二人の間に入る。


林瑠  フロアじゅうに声響いてんで。もうええ加減にしときや?


紫   佐伯(さえき)先輩、でもこいつが…


林瑠  おまえはやりすぎやねん。


紫   っ…すみませんでしたっ。


N   不服そうに強く耳を離すと、ぷいっと紫はそっぽを向く。


みこと いたっ…うぅぅ。


紫   ふんっ。


林瑠  で?どないしたんや、不知火。


みこと え…?あ!!あの鳴海警部は?


林瑠  鳴海警部?さっき喫煙ルームで見かけたけど、すぐ戻って来はるんちゃうかな。急ぎの用事か?


みこと あっ、あの、あの、その、えっと…


紫   だーっもう!!あんた馬鹿なの?!はっきり言いなさいよ!


林瑠  せやから、おまえがそうやってまくし立てるさかい、余計言いづらなるんやで。


紫   だって…


風助  賑やかだな、なんの騒ぎだ?


N   にこやかに風助が三人に声をかける。
    林瑠はほっと胸をなでおろした。


林瑠  鳴海警部、お疲れ様です。不知火が鳴海警部に何や話がある言うてるんですが。


風助  どうした?不知火。


みこと あっ、あの……その…


紫   ちっ(大きな舌打ち)。


みこと ひえぇっ。


林瑠  紫、そう威嚇すな。


紫   威嚇なんかしてません。


風助  ははは、紫は相変わらずだな。


林瑠  黙っとたら可愛いんですけどね。こんなに怒りっぽい女あきませんよ。


紫   セクハラですか!?


林瑠  セクハラやのうて事実や。


紫   なっ?!


林瑠  お前もそう思うやろ、不知火。


みこと え!そそそ、そこで僕に振るんですか!?


風助  こらこら。で、どうした?俺に話したいことがあったんじゃないのか。


みこと あっ!!そうです!!そうなんです!!!鳴海警部にこれが…


N   みことはポケットを探り、一通の黒い封筒を差し出した。


風助  …!?


N   受け取った封筒の裏面に押されている赤い風車の刻印を見て、風助は顔色を変える。
    その様子を見て林瑠も紫も瞬時に察した。


みこと 怪盗ムーラン・ルージュから鳴海警部への予告状…です。


風助  ああ…。

N   封を開け、カードを取り出すと、風助は静かに内容を読みあげた。


風助  鳴海警部…ご機嫌いかがかな?
    太陽は毛織の荒布(あらめ)のように黒くなり。

    月は紅に染められ。

    天の星は麗しく。

    美しい女神の微笑みを連れ去り、我が手に堕とす。
    これがあなたに送る最後の手紙です。終宴をお互い楽しみましょう。
    あなたの…怪盗ムーラン・ルージュより。


林瑠  警部…。


風助  すぐに捜査会議だ。

 


ホープ・ダイヤモンド編 END

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